2013年の読書メーター

2013年の読書メーター
読んだ本の数:168冊
読んだページ数:50154ページ
ナイス数:7640ナイス

文明はなぜ崩壊するのか文明はなぜ崩壊するのか感想
マヤ、ローマなどの古代文明はなぜ崩壊したのか。崩壊に至る原因を探ると進化と脳の仕組みに原因があった。現代文明もまた同じ道を辿るのか?となかなかエキサイティングな内容。崩壊の原因をシンプルに整理し、さらにその回避方法まで提案するがトンデモ本でもハウツー本でも自己啓発本でもない。手っ取り早く知るには目次と238ページと288ページを読めばいい。2009年当時のアメリカの諸事情やチンパンジー貨幣経済を教える実験、脳の仕組みなど説明のための話が興味深かった。中でもリサイクルは実は無駄だったという衝撃の事実!
読了日:12月30日 著者:レベッカコスタ
女帝エカテリーナ (下) (中公文庫)女帝エカテリーナ (下) (中公文庫)感想
ロシアの母として慕われ、その死を悼まれた。享年67歳。もし80歳まで生きていたら歴史は変わっただろうか。ピョートル大帝の意志を継ぎ、トルコからクリミヤ半島と黒海の港を奪い、プロイセンオーストリアと共にポーランドを分割、領土を拡大した。西欧諸国と対等に渡り合い怖れられた。女でありながら男、されど女だった。次々と愛人を作り、60歳になり歯がなくなっても若い男なしにはいられない。馬鹿息子のパーヴェル大公の皇位継承権を剥奪出来なかったのが心残りだった。晩年にはフランス革命が起き激動の時代へと変わる。
読了日:12月30日 著者:アンリ・トロワイヤ
やさしい女・白夜 (講談社文芸文庫)やさしい女・白夜 (講談社文芸文庫)感想
自ら好んで状況を悪化させ、周りも巻き込んで不幸のどん底へ転げ落ちる男の混乱した一人称の語りは芥川の「歯車」や「或る阿呆の一生」のようでなんともいいようのない哀しみを感じる「やさしい女」、夢想家は儚くも美しい幻想的な夢を紡ぎ出すが所詮は叶わぬ夢でしかなく、砂漠で見た蜃気楼の街を本当の街だと思い込み、渇いた喉を潤せるとかけつけるも蜃気楼は儚く消え去ってしまったように現実を突きつけられる「白夜」の中篇2篇。男が悪いのかそれとも女がズルいのか。さらりと読めたがどちらもなんとも救いのない哀しい恋物語だった。
読了日:12月26日 著者:ドストエフスキー
教科書でおぼえた名詩 (文春文庫PLUS)教科書でおぼえた名詩 (文春文庫PLUS)感想
近代の詩、俳句、短歌、万葉集、古今・新古今和歌集梁塵秘抄漢詩、翻訳詩が250篇。うろおぼえ索引があるので一部だけでも覚えていれば探し出せる。懐かしいものもあり、知らないものもあり。現代詩は少ないが好みの詩人や歌人俳人を見つけるのにもいいかもしれない。梁塵秘抄大河ドラマ平清盛」の「遊びをせんとや生まれけむ たはぶれせんとや生まれけん 遊ぶこどもの声聞けば わが身さへこそゆるがるれ」があったのが嬉しくてドラマを想い出しつつ唄ってみた。
読了日:12月25日 著者:
女帝エカテリーナ (上) (中公文庫)女帝エカテリーナ (上) (中公文庫)感想
ゾフィが母とロシアの国境を越えたのは13歳の時。ドイツに生まれた彼女はロシアを愛した。ロシア語を覚え、ロシア正教に改宗、結婚時にエカテリーナと改名する。ロシアに溶け込みロシア人になりきろうとしたのだ。権力を握るまでの20年は長く苦しい孤独な戦い。「わたしは非常に誇りが高かったから、自分を不幸だと認めることさえ嫌だった。」古典や啓蒙思想を学び機会を待つ。高い知性と教養、優雅な物腰と美しい容姿は宮廷人だけでなく外国の大使たちをも魅了する。クーデターで女帝となったエカテリーナは啓蒙専制君主として改革を実行する。
読了日:12月24日 著者:アンリ・トロワイヤ
クリスマス・キャロル (光文社古典新訳文庫)クリスマス・キャロル (光文社古典新訳文庫)感想
チャリチャリ、ゴロゴロと足枷に繫がる鎖の先の重い鉄球を引き摺る音と共にスク〜ルジ…と呼ぶ声。子供の頃、朗読テープ付で読んだ覚えがある。子供向けにかなり省略されていたんだなぁ。〈並はずれた守銭奴で、人の心を石臼ですりつぶすような情け知らず〉な〈因業爺〉が童心に返ったように子供の頃を想い出しながら可哀想な子供に涙を流し、貧しくも暖かい家庭のクリスマスに羨望を覚え、楽しいパーティーに心を踊らせ、暗澹たる未来に震え上がった。ちょっと早いけどディケンズからのクリスマスプレゼント。
読了日:12月22日 著者:ディケンズ
悪の引用句辞典 - マキアヴェリ、シェイクスピア、吉本隆明かく語りき (中公新書)悪の引用句辞典 - マキアヴェリ、シェイクスピア、吉本隆明かく語りき (中公新書)
読了日:12月22日 著者:鹿島茂
貧しき人びと (新潮文庫)貧しき人びと (新潮文庫)感想
ドストエフスキーの処女作は恋の苦悩と貧困の苦痛の二重奏からなる、ゴーゴリの「外套」の変奏曲だった。書簡体小説なので行間だけでなく書簡の間の余白に想像の余地がたっぷりとある。書簡をやりとりする2人は隣近所に住んでいるので手渡しだ。同情と憐憫と愛情の複雑に絡まったせつない恋とゴーゴリ描き出したようなペテルブルクの裕福でない下級官吏や市民たちの生活が描かれる。フランス文学、ゴーゴリプーシキンディケンズの影響があるようだ。初めほほえましく読んでいたが途中から煩悶し、悶絶して読み終えた。
読了日:12月20日 著者:ドストエフスキー
ひとさらい (光文社古典新訳文庫)ひとさらい (光文社古典新訳文庫)感想
透きとおったガラス玉の中にはたくさんの匂い、音、視線、沈黙、愛情、悲しみ、苦悩、孤独、青か緑の瞳、真っ黒な瞳、青白い肌が詰まっている。ガラス玉は砕け散り、愛の官能を苦悩と孤独の雲が覆い隠す。葉巻の匂いは南米の広々とした大地に誘い、沈黙は甘い吐息に変わる。甘美な毒は全身に廻り、キリキリと心臓を締め付ける。透明感のある文体、五感に訴えかける描写と視点の移動、心理描写、パリと南米の融合した不思議な感覚など新鮮な読書感覚だった。冒頭からぐいぐいと惹きこまれ、あっという間に読み終えてしまった。これはお勧め。
読了日:12月18日 著者:ジュールシュペルヴィエル
ロシア (ヒストリカル・ガイド)ロシア (ヒストリカル・ガイド)感想
10世紀頃東スラブ人が作った国、キエフ・ルーシからモスクワ大公国ロシア帝国、ソヴィエト共和国連邦、ロシア連邦までのロシアの通史。教科書的な記述でやや退屈だったのでロシア帝国部分をつまみ読みした程度。参考文献は充実しているけど通史として興味をひく本がない。大好きな伝記作者のアンリ・トロワイヤが「イワン雷帝」(モスクワ大公国)、「ピョートル大帝」「エカチェリーナ女帝」「アレクサンドル一世」「帝政末期のロシア」を読めばロシア帝国までは繋がるかな。
読了日:12月17日 著者:和田春樹
図説 帝政ロシア (ふくろうの本/世界の歴史)図説 帝政ロシア (ふくろうの本/世界の歴史)感想
ピョートルの元老院による大帝の授与から十月革命によるニコライ2世と皇帝一家の処刑までの約200年の歴史。地図や写真などが多く、ビジュアルで見る資料集として価値がある。文章はコラム以外はオマケ程度かな。一応全部読んだけど。文化は19世紀の音楽、バレエ、管弦楽がコラムで紹介されている。画家たちは1章を割いて紹介されている。クラムスコーイの「見知らぬ女」という絵画はアンナ・カレーニナのようだ。でもそれ以外はあまり惹かれない。
読了日:12月17日 著者:土肥恒之
ドストエフスキー (1968年) (筑摩叢書〈106〉)ドストエフスキー (1968年) (筑摩叢書〈106〉)感想
ドストエフスキーの生涯と主要作品の考察。背景となる時代、思想、私生活、作家たち、書簡、ロシア人の特性などからドストエフスキー文学の発展の過程を鮮やかに解き明かす。彼の文学の理解に「ロシア人」という属性は欠かせないようだ。また彼の恋愛、結婚、賭博などの私生活が当時の思想によって濾過され蒸留されて作品になる。音楽でいうとベートーヴェンのようだ。彼は19世紀文学と20世紀文学の橋渡しをしている。この本を読んで彼に何よりも惹かれたのが人間性。不器用で欠点も多いがあたたかく心優しい性格で憎めない。また再読したい。
読了日:12月15日 著者:E.H.カー
ピグマリオン (光文社古典新訳文庫)ピグマリオン (光文社古典新訳文庫)感想
シンデレラは灰かぶりからお姫様になりました。キプロス王ガラテアは理想の女を彫刻し、人間にしてもらいました。現代のシンデレラ=彫像は幸せにならず、王子=彫刻家も不誠実でした。二つの物語をヒネリまくったアイロニカルな物語。下層階級が不幸で中上流階級は幸福?気品は生まれもったもの?ショーは既存の価値観をひっくり返したかったのだろう。ト書きが長くて細かいので小説のほうがよかったのではと思った。後日譚は小説だし。映画「マイフェアレディ」の原作だけど別物らしい。訳文が素晴らしく朗読すると楽しそうだ。舞台でも観たい。
読了日:12月14日 著者:バーナード・ショー
交換教授: 二つのキャンパスの物語(改訳) (白水Uブックス)交換教授: 二つのキャンパスの物語(改訳) (白水Uブックス)感想
コーヒーとミルクが注がれて混じり合うカフェオレのCMのように溶け合い、シャッフルされた4人の男女の物語。舞台は60年代のアメリカとイギリスの田舎町。プロットは都会のネズミと田舎のネズミだが様々なギミックとが仕掛けられており最後まで予断を許さない。起承転結のあるサザエさんのような昔の4コマ漫画のようだ。多様な文体(意識の流れ、書簡体、映画の脚本、新聞記事、メタフィクション)の宝庫で想像力を掻き立てられる。アイロニカルなのはナボコフやビンチョン(H.HとLoが隠れてた!)を彷彿とさせるも読みやすい。
読了日:12月10日 著者:デイヴィッドロッジ
狂人日記 他二篇 (岩波文庫 赤 605-1)狂人日記 他二篇 (岩波文庫 赤 605-1)感想
現実と夢が交錯し、夢が現実を浸食しながらすべてが茫洋と霞んでしまう。表題作はソローキンに似ている気がする。芥川の「歯車」みたいに狂気に蝕まれていく様は読んでて痛々しい。表題作が目当てだったが「肖像画」が良かった。絵画が好きな人にお勧めしたい。二部構成で、一部だけでも幻想ものとしていいが二部には作者の絵画論・芸術論が書かれていて一読に値する。この訳者もゴーゴリの作品に思想や教訓めいたものを求めているが、ナボコフのように現実の縮尺のおかしい幻想文学として読むほうがいいと思う。
読了日:12月4日 著者:N.ゴーゴリ
愛 (文学の冒険シリーズ)愛 (文学の冒険シリーズ)感想
短編集⚫︎学校の休み時間や放課後、共同体での仕事風景、森でのキャンプなどよくある光景が淡々と描かれる•••••••••••突然突然突然突然わけがががががががわからないよよよよよよ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎⚫︎平凡な日常生活、でも待てよ!何かがおかしい。いったいこれは…。⚫︎先生のところにー同志よ、ソ連 ー世界はテクストで出来 ー写真のようにコラージューは至高の愛ーれは文学の冒険なんーんゴーゴリナボコフの系譜のよー文学空間という虚構世ーくくくそ騙されれれ… でも嫌いじゃないですよ。こういうスリルと冒険!
読了日:12月3日 著者:ウラジーミル・ソローキン
大尉の娘大尉の娘感想
おお、若さよ!ロシア魂よ!永遠なれ!エカテリーナ女帝治下で起きたプガチョフの反乱を題材にした歴史物語。前半の平和な家庭には安らぎを覚え、主人公にはウェルテルのような情熱を、悪役のプガチョフには人間味を感じる。初めはゆるやかに途中からウォッカを煽ったように心臓は早鐘を打ち、血湧き肉躍る冒険に釘付けになる。これを源流にやがてトルストイ戦争と平和という大河になる。また‘ロシア的反乱’はツルゲーネフの父と子、白痴のイッポーリトの手記などの‘ナロードニキニヒリズム’であるテロへと繋がっていく。
読了日:12月2日 著者:アレクサンドル・セルゲーエヴィチプーシキン
鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)
読了日:11月30日 著者:ゴーゴリ
ニコライ・ゴーゴリ (平凡社ライブラリー)ニコライ・ゴーゴリ (平凡社ライブラリー)感想
これは批評なのか伝記なのか。ゴーゴリの死から書き始め作品を解剖したあと最後は誕生で終わる。傑作の「死せる魂」(とても面白い!)は本来3部構成のはずが第1部しかなく未完なのはゴーゴリの創造力が尽きてしまったかららしい。「検察官」「死せる魂」「外套」を(特に「死せる魂」は詳しく)腑分けしバラバラにして並べて見せてくれる。いわくゴーゴリに象徴的意味や思想を求めるのは無意味であり、不条理の宇宙的深遠を漂うのが正しいようだ。ゴーゴリを読み返したくなった。
読了日:11月28日 著者:ウラジーミルナボコフ
白痴 3 (河出文庫)白痴 3 (河出文庫)感想
波がうねり大きな波にさらわれて高く持ち上げられたかと思うと小さなさざ波に流される。波間を木切れに掴まって漂ってる感じだった。最後は斜面をスキーで直滑降するように一気に読みきった!衝撃的なラストにしばし呆然…。読む人によって様々に読むことができる万華鏡のような小説だ。心理小説、恋愛小説、サスペンス、スパイ小説、思弁小説、政治小説、宗教小説、幻想文学。暗喩に満ちていて様々な思想がパズルのように散らばっている。ストーリーものぞき窓から一部だけ観せられてる感じ。時間も空間も伸縮して歪む。これは夢の世界だ。
読了日:11月25日 著者:ドストエフスキー
とりかへばや物語  ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 日本の古典)とりかへばや物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス 日本の古典)感想
内気でおしとやかな男君と活発で元気な女君。ふたりが男女逆だったらよかったのにと父の大納言が嘆くので「とりかえばや物語」男君は男の娘として宮中に参内し、女君は男装し公達として出仕する。女君がふとしたことから出産したので男女入れ替わる。心情描写が素晴らしい。男君の心情は描かれないが順応性が高くちゃっかりしている。女君は男の考え方をしていたが女に目覚め、女の幸せや子供のこと自身の秘密の露見を恐れて思い悩む。帝や好色な大納言も恋に思い悩む。色々な意味でとても現代的な物語で驚いた。
読了日:11月23日 著者:
おくのほそ道―永遠の文学空間 (NHKライブラリー (62))おくのほそ道―永遠の文学空間 (NHKライブラリー (62))感想
芭蕉は漂白の旅に出る。旅路は幻想的な異空間だった。時に空高く舞い上がり山々を見降ろすかと思えば桜の下では西行法師が歌を詠んでいる。義経木曽義仲が馬で駆け回るのが見え、ふと周りを見渡せば源氏物語の夕顔の家が現れる。深川から日光、福島を経て平泉に。山を越えて秋田の象潟から新潟、富山、金沢を経て大垣までの旅。原文は短くて原稿用紙40枚くらい。緩急自在なリズムの文と俳句は読んでて心地よい。短い語句に和歌、源氏物語漢詩、故事、伝説などが織り込まれていてイメージは限りなく膨らんでいく。まさに俳句そのもの。
読了日:11月21日 著者:堀切実
白痴 2 (河出文庫)白痴 2 (河出文庫)感想
幕が上がるとモノローグの語り。1巻から時間が経過している。主人公の公爵が現れるまで物語は動かない。舞台には大抵公爵がいて舞台の外の出来事は直接描写されず会話などで仄めかされるだけなのだ。登場人物たちは1巻とは職業や考え方が変わり、それぞれの関係にも変化がある。新たな人物も登場。またも大きな陰謀が進むが、モザイクみたいにだんだんハッキリ見えてくる。結婚問題が主題の一つだがもう一つの主題であるロシアの政治、社会制度についての考察も行われる。公爵の周りには人が集まるがあの女が人々の間に暗い影を落とす。2へ。
読了日:11月19日 著者:ドストエフスキー
もうひとつの街もうひとつの街感想
菫色の装丁の本に書かれた文字を読み、闇に蠢く存在を認めた時、日常生活は崩壊する。夜の街は見慣れた街と様相が変わる。街を歩くと小動物に追いかけられ、靴屋は怪しげなオブジェを陳列する雑貨屋に変わる。橋の欄干はバーや小動物の畜舎になり、地下の大聖堂では奇妙な宗教の儀式が行われている。我々は硝子窓の中の世界で生活していたのだ。秘密を知った者は緑色の電車で拉致され夜の世界の住人となる。昼の世界では忘れられた存在として。白い雪、赤や緑の光、煌めく宝石、魔術的な音楽などが美しい、鏡花を彷彿とさせるチェコプラハの物語。
読了日:11月17日 著者:ミハル・アイヴァス
白痴 1 (河出文庫)白痴 1 (河出文庫)感想
叫ぶ!叫ぶ!叫ぶ!カラマーゾフ以来のドストエフスキーは熱い!一癖も二癖もありハイテンションなキャラクターたち、予測のできないストーリーで冒頭から物語の世界へグイグイ引き込まれた。ムィシキン公爵は金と名声の欲望が渦巻く社会に舞い降りた天使なのか?それとも平穏な日常生活を脅かす病原菌なのか?鏡のように向き合う人間の真実の姿を写し出し、白痴と笑われながらも彼の存在は人々を変えてゆく。 登場人物たちの登場の仕方、物語の進行はいくつかの場がある戯曲のようだ。 第一幕は喜劇だった。公爵の後を追いかけながら中巻へ。
読了日:11月14日 著者:ドストエフスキー
カールシュタイン城夜話カールシュタイン城夜話感想
男が4人集まれば女の話をし始める。神聖ローマ帝国皇帝カール4世はモラヴィア辺境伯、ローマ王、ボヘミア王、ローマ王、イタリア王、でありチェコ王であったのでカレル4世と呼ばれる。皇帝と重臣であり親しい友でもある3人が7日間に渡って話をする。帯にある千夜一夜物語というよりはデカメロンのような中世の歴史の枠物語。皇帝は4度結婚しているが妃たちの話、ファムファタルな女の話、画家の話、イタリアの家族の話、グラナダのモーロ人のハーレムの話などバラエティに富んでいて楽しめた。チェコ語の読みに馴染むのに時間がかかったな。
読了日:11月10日 著者:フランティシェククプカ
テス 下 (岩波文庫 赤 240-2)テス 下 (岩波文庫 赤 240-2)感想
下巻に入り錐揉み急降下。読むうちに主人公テスは様々に移り変わる。聖女カタリナ、マグダラのマリア、イヴ、最後は異教の神々への生贄に。エンジェルにとってはピグマリオンベアトリーチェであった。ホルスとイシスの死と再生の物語、悪魔の誘惑に屈したファウスト、運命に翻弄されたオイディプス王などとも重なり、ゲーテの親和力のようにテス、エンジェル、アレクの三人が変性し、化学変化を起こす様を観察する気持ちにもなり冷静に読んだ。テスの移動に伴い季節毎に移り変わるイングランドの風景や牧場、農村の作業風景なども興味深かった。
読了日:11月6日 著者:トマス・ハーディ
更級日記 堤中納言物語 阿部光子の (わたしの古典シリーズ) (集英社文庫―わたしの古典)更級日記 堤中納言物語 阿部光子の (わたしの古典シリーズ) (集英社文庫―わたしの古典)感想
ほのかに薫る香、遠く近く聞こえる琵琶の音、さらさらと衣擦れの音に和歌を詠み上げる声。読み始めると時は1000年以上を越えて平安時代へと誘われる。源氏物語もだが、物語の中に和歌があるとすっと心に入ってくる。国司を勤めた父の娘に生まれ、物語に憧れつつも平凡ながら幸せな結婚をし、宮中での淡い恋など夢幻の如き世を生きた「更科日記」は西洋の回想録のようなもの。短篇集である「堤中納言物語」からは11篇。同じような話がなく、どれも甲乙付けがたい。書の余白のように物語の落ちがないのも趣がある。どちらも原文でも読みたい。
読了日:11月3日 著者:阿部光子
テス 上 (岩波文庫 赤 240-1)テス 上 (岩波文庫 赤 240-1)感想
ああ、魂をひきしぼられるようなもどかしさ!綺麗な顔立ちに生まれたせいで苦しむことになるとは。気だてもよくて可愛らしいのに。墓場まで持っていくほうがいい秘密というものもあるのにバカ正直に打ち明けることはないのに。運命の女神は残酷すぎる。幸福の絶頂まで押し上げておいて一気に後ろから突き落とすつもりなのか?
読了日:10月31日 著者:トマス・ハーディ
ボルヘスのイギリス文学講義 (ボルヘス・コレクション)ボルヘスのイギリス文学講義 (ボルヘス・コレクション)感想
暖炉の傍の安楽イスに座わってパイプをふかしながら「君はイギリス文学を読んでるんだってね。イギリス文学はどのくらい知ってるかね?ご覧のとおり目が見えなくなってしまったので記憶を頼りになるからあまり詳しくは語れないけど覚えている限りでイギリスの文学者たちについて話してあげよう。」ボルヘスはイギリス文学を偏愛していたらしい。元は大学の講義だがこんな授業だったらぜひ聴講したい。古代から20世紀までの文学者、詩人、劇作家たちの略伝を語り、作品の一部を引用したり、時に脱線したり。まるで頭の中が図書館のようだ。すごい!
読了日:10月30日 著者:J.L.ボルヘス,M.E.バスケス
チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)感想
上流階級と下層階級は対立し、貪欲な金銭という神に支配された機械化された産業社会のセルロイド製のブリキ人間だ。上流階級は進歩思想や精神生活を重視し、男も肉体性を否定している。下層階級の男はボルシェビズムに毒されている。階級に関わらず女は性に消極的で他人の醜聞ばかり気にしている。下層階級出身ながら大尉となり階級差を超えた男と上流階級の令夫人との結び付きは肉体の目覚めと原初の人間性の回復である。完全版ではあるものの訳が良くない。ちくま文庫か原書で読んだ方がいいと思う。
読了日:10月27日 著者:D.H.ロレンス
月と六ペンス (角川文庫)月と六ペンス (角川文庫)感想
平凡な人並みの暮らしと真に生きる人生はどちらが幸せだろう?偽りの仮面を被り続けると仮面は本当の顔になる。素顔を晒して生きることは苦しい生き方だ。美とは怖ろしい。表現せざるを得ないからだ。美を理解できるからといってその美を表現できるとは限らない。美が理解できる分もどかしいかもしれない。彼は美に憑かれ偽りの人生を捨てた。彼の人生は美を捕えることだった。自己満足とは蔑みの表現だが、天才もまた自己満足なのだ。天才画家の波乱万丈の人生に深く感動を覚えた。高尚なるものと下劣なもの。矛盾に満ちた、人間というもの。
読了日:10月18日 著者:サマセット・モーム
悪女という種族 (ハルキ文庫)悪女という種族 (ハルキ文庫)感想
悪女といえば男を破滅させるファムファタルの女が思い浮かぶが、この短篇集の悪女は全てがすべて男を破滅させるわけではない。読んでいるとドンデン返しがありハタと膝を打つような話もあって星新一渡辺温を彷彿とさせる。吉行淳之介は女にモテたらしい。そう考えると自分の体験もあるように思える。「水族館にて」「がらんどう」「寝たままの男」が好み。
読了日:10月15日 著者:吉行淳之介
シェイクスピア全集 (〔37〕) (白水Uブックス (37))シェイクスピア全集 (〔37〕) (白水Uブックス (37))感想
戦争もなく、劇的な場面もない作品。王の寵愛を受け、思うがままに権力を振るった枢機卿ウルジーの凋落ぶりが見所かな。孝謙上皇の元で法王になり権力を振るった弓削道鏡を思い出した。「五つの港を代表する四人の男爵」はイングランドでかつて海賊から身を守るためにドイツのハンザ同盟にならって商人たちが結束したもの。五港同盟はハスティング、ロムニー、ハイス、ドーヴァー、サンドウィッチで後に「古都市」ウィンチェルシー、ライが加わり中世の様々な特権が与えられた。同盟の最高指導者は五港提督で今日でもドーヴァー城にいるらしい。
読了日:10月15日 著者:ウィリアム・シェイクスピア
歴史人 2013年 10月号 [雑誌]歴史人 2013年 10月号 [雑誌]感想
「もしもの戦国史」のみ。「織田がつき羽柴が捏ねし天下餅、座りしままに食うは家康」群雄割拠の戦国時代を終結させ安土・桃山時代、江戸時代を開いた3人の武将がいなかったら?ifは歴史の醍醐味のひとつだと思うけど巷にある本は荒唐無稽な伝奇もの。この特集は政治、経済、戦術、人間性、信念、宗教観、組織、血縁に加えライバルや政敵の行動を踏まえて緻密にシミュレーションしたもの。8つの歴史のifの結末は?CGで再現された戦場、人物相関図、歴史地図、ifの政権組織図など新書一冊分の読み応え。戦国好きにはたまらない。
読了日:10月13日 著者:
アシェンデン―英国秘密情報部員の手記 (ちくま文庫―モーム・コレクション)アシェンデン―英国秘密情報部員の手記 (ちくま文庫―モーム・コレクション)感想
第一次大戦時のヨーロッパを舞台にした短篇のアンソロジー。各短篇は繋がっていて長編にもなっている。モームの体験を元に書かれていてアシェンデンは英国情報部(MI6?)のスパイとして活躍するが暗殺や破壊工作などはせず派手さはない。忍者だと上忍から指令を受け、実行部隊の下忍に指令を与える中忍のような役割だ。上司の大佐、毛なしのメキシコ人、オーストリアの女スパイの男爵夫人、どさまわりの踊り子、革命家の女などキャラクターも個性的で面白い。ナチスの宣伝相はこの作品を引き合いにだして英国情報部の卑劣さを喧伝したらしい。
読了日:10月13日 著者:サマセットモーム
十蘭万華鏡 (河出文庫)十蘭万華鏡 (河出文庫)感想
大空をゆっくりと旋回してるはずがいきなり錐揉み飛行や宙返りをされて吃驚するような読後感のあるものばかりでまさに万華鏡のような短篇集。戦前の仏蘭西はやはり今と違う。こじゃれた雰囲気の「花束一番地」「贖罪」「川波」、「大竜巻」「ヒコスケと艦長」「少年」「天国の登り口」「花合わせ」は太平洋戦争物。「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山を出でし月かも」阿倍仲麻呂が主役の「三笠の山」は異色。さすが文体の魔術師。引き出しが多い。
読了日:10月9日 著者:久生十蘭
輝ける闇 (新潮文庫)輝ける闇 (新潮文庫)感想
赤や緑の豆電球に囲まれ、ネオン管の光輪を負い真っ白な顔に赤い唇をした黄色い仏陀。赤く塗った棺からはコーヒー色の屍液がねっとりと滴る。死は蠱惑的に誘いかける。ベトナム戦争という腐臭を放つモノに記者として喰い千切り、咀嚼し、嚥下した時、小説家として書かずにはいられなかったのだろう。ベトナムを経験したことで何かが変わってしまったらしい。「ベトナム戦記」は優れたルポタージュだが未完に終わった闇三部作の一作目であるこの作品は優れた文学作品だと思う。先に「戦記」を読んだので作品の構造が垣間見えるのも興味深かった。
読了日:10月9日 著者:開高健
美の世界 愛の世界 (講談社文芸文庫)美の世界 愛の世界 (講談社文芸文庫)感想
国語の授業では和歌や短歌、俳諧や俳句、漢詩が好きだった。詩歌は味わい方を教わらないと良さが分からないと思う。詩歌は苦手で読友さん達の素晴らしい詩の感想が羨ましい。学校の先生のように詩人佐藤春夫が詩歌の世界に案内してくれる。美の世界、愛の世界、童心の世界とカテゴリー別に古今東西の詩や和歌、短歌、俳諧、俳句、漢詩を思いつくまま紹介してくれる。元は新聞に連載したものなので読者から間違いを指摘されて訂正しているのも微笑ましい。音読する。解説を読み、また音読してみる。音の響きと余韻が心地酔い。久々に詩歌を味わえた。
読了日:10月8日 著者:佐藤春夫
こころ (岩波文庫)こころ (岩波文庫)感想
まったくの偶然だが先月読んだ本とリンクしていた。「良心」は「神」なき日本人にもかつてはあったということなのか。それとも英国を知る漱石だからそう書いたのか。「テレーズ」や「海と毒薬」のように直接手を下したわけではないが、間接に親友を死に追いやった「私」の「良心」の痛みはいかばかりであったろうか。また妻を愛するが故に真実を打ち明けられぬ苦悩も辛かったろうと思う。「手紙」とあるが「手記」の形式で告白される物語は「ネジの回転」のようでもあった。
読了日:10月6日 著者:夏目漱石
ねじの回転デイジー・ミラー (岩波文庫)ねじの回転デイジー・ミラー (岩波文庫)感想
天真爛漫で純粋無垢の天使のような兄妹は観るだけで癒される可愛らしさ。無邪気な子供たちが大人以上に狡猾で計算高く詐術を弄するのか?それは憂鬱症のためそうみえるのか?時折現れる幽霊は自分しか見えない幻覚か?ヴィクトリア朝の田舎町での事件が残された手記で語られる「ネジの回転」は時空がねじ曲がるような読後感。天真爛漫で自由奔放なアメリカ娘の「デイジー・ミラー」はレマン湖とローマの都を舞台に燦々と陽光を浴び光り輝く。「マノン・レスコー」のような可愛らしさだった。2篇は闇と光のように対照的だがどちらも素晴らしい。
読了日:10月5日 著者:ヘンリー・ジェイムズ
ベトナム戦記 (朝日文庫)ベトナム戦記 (朝日文庫)感想
ニョック・ナムのニオイが地面に染み込んだ国ベトナム。1964年全土が最前線。都市で仏教徒がデモや抗議の断食をし、泣き女はチョーヨーイと泣く。将軍はクー(デター)を繰り返し、ベトコンはテロを起こして公開銃殺。砦でベトコンの変幻自在の攻撃に怯え、155mm砲が唸る。密林の浸透作戦では頭上を弾丸が飛び交う。ベトナム兵は真赤な花を咲かせ、虫のようにひっそりと死んでいく。僧侶と語り、アメリカ人下士官ベトナム人将校と同じ釜の飯を食う。命がけの取材をした開口と秋元カメラマン。一ノ瀬泰造のように殺されなくてよかった。
読了日:10月3日 著者:開高健
野坂昭如コレクション〈1〉ベトナム姐ちゃん野坂昭如コレクション〈1〉ベトナム姐ちゃん感想
「人生はセックスや、エロやがな」小気味いい大阪弁で語られる「エロ事師たち」にヘラヘラしてたら突然鳩尾に拳をくらい、吊されてアスファルトに叩きつけられた。蹴飛ばされ踏みつけられ地面に這いつくばって泥水を啜り飢えを凌ぐ。周囲は灼熱の炎と瓦礫の山。焦げ臭く黒いユーモアが漂い、底辺に死の影が漂う。物語られる戦争の記憶は小学生の頃よく見せられた東京大空襲のスライドや広島、長崎の原爆写真と重なり、痛々しい最下層の娼婦、男娼たちに乞食坊主の和讃が聞こえれば五木寛之親鸞」を思い出す。一気読みは中々辛い読書体験であった。
読了日:9月30日 著者:野坂昭如
船乗りクプクプの冒険 (集英社文庫 30-A)船乗りクプクプの冒険 (集英社文庫 30-A)感想
おもしろいモノガタリだったなぁ。キソウテンガイマカフシギというやつだ。キタ・モリオは変なやつだけど、北杜夫は面白いなぁ。いわゆるメタ小説というやつ。昔絵本でボトルシップの船に乗り込む話を思い出したよ。題名なんだったかなぁ。コドモ向けの本でもオモシロイものはオモシロイなぁ。イキヌキにピッタリだった。
読了日:9月30日 著者:北杜夫
堀辰雄全集〈第2巻〉 (1977年)堀辰雄全集〈第2巻〉 (1977年)感想
楡の家」と「菜穂子」のみ読んだ。両者は対になっていて「楡の家」は菜穂子の母の日記になっている。「菜穂子」が「テレーズ・デレスケウ」を下敷きに書いたということで読んでみた。堀辰雄は「テレーズ…」を消化し、菜穂子と幼なじみの明の2人は双子のようにテレーズの人格を受け継いだようだ。テレーズが死から生へ向かうのに対し、生から死へ向かうのは短調を好む日本人気質なのだろうか。あまり起伏がなく淡々と語られる物語は淡く水彩画のようで高原の夏の涼しさと冬の寒さがヒシヒシと感じられた。昔は東京も随分雪が降ったんだな。
読了日:9月28日 著者:堀辰雄
どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)感想
たしか中学生の頃読んで以来の再読。まったくといっていいくらい覚えてなかった。北杜夫が船医として海洋調査船に乗り込み、マラッカ海峡スエズ運河を通り地中海へ、大西洋をのぼり北ドイツへ。そこで反転して日本に帰るまでの半年間の航海記。各地の港に寄港するがアジアやアフリカが面白い。くだけた文章の中に文学作品を織り込んであるのが心憎い。面白くはあるけど印象に残らないのでまた忘れそうだなぁ。
読了日:9月27日 著者:北杜夫
テレーズ・デスケルウ (講談社文芸文庫)テレーズ・デスケルウ (講談社文芸文庫)感想
初読では濃い霧の中を手探りで進むように読んだためすぐに再読した。じんわり甘みが拡がる。線路を走る列車のように因習的で単純なボルドーの人々。古い家、財産、結婚は籠の小鳥のような人生だ。テレーズはジープのように道なき道を走りたい。自分自身の心を探り自分らしさを探す物語。またこれは神を探す話でもある。プルーストの小説(同時代)、アンナ・カレーニナボヴァリー夫人タタールの砂漠、路上、海と毒薬などが反響し物語に深みを与えてくれた。遠藤周作は「海と毒薬」を執筆しつつ読み返したという。何度も読める味わい深い小説。
読了日:9月27日 著者:フランソワ・モーリアック
好色一代男 (中公文庫)好色一代男 (中公文庫)感想
江戸の色恋は遊廓の遊び。女郎も客も野暮はいけない。粹でないと。日本全国を旅するも江戸、京の都、大阪はやはり別格。「たわむれし女3742人、少人のもてあそび725人」数だけは勝るがそもそも比べる次元が違った。交接場面はぼかされ想像の世界。訳注がいっさいなくて、古典は素人だが自分なりに訳したという吉行淳之介源氏物語はなんとなく分かるが、伊勢物語古今集西行の和歌を知らないと分からない部分もあり。江戸の色の道は教養も必要なり。雰囲気を楽しんだという感じ。教養身につけ再読したい。
読了日:9月24日 著者:
聞き書き性人伝―この人たちの端倪すべからざる好色魂を見よ聞き書き性人伝―この人たちの端倪すべからざる好色魂を見よ感想
英国紳士がダンディズムなら日本男児はイキだ。刀を鞘に納めるのだ。良き時代のアングラのにおい。著者のいその氏はあの「11PM」のレポーターだったらしい。突き抜けている性のアウトローたちの清々しさ。「てかけ13人半の“女極道”」は色道六十余年の84歳、新宿御苑に君臨する「人呼んで覗きの為五郎」、「男一筋男色人生」、「夫婦交換1000回夫婦」、「汚れ下着収集マニア」、「女の分身コレクター」など性の世界は奥深い。語りの合間のいその氏の解説がまたいい。性は聖なり。自分もいそのファンになった。
読了日:9月23日 著者:いそのえいたろう
我が秘密の生涯 (河出文庫)我が秘密の生涯 (河出文庫)感想
中世の騎士のように突撃を繰り返し、ガトリング砲の如く弾丸を撒き散らす。女中、人妻、娼婦のうち名前が出てくる20人、連れ込み宿7,80人でざっと100人斬り。探求心旺盛で性の形而上学バタイユを彷彿とさせる。知的で行間に教養を漂わせたこの本はポルノではない。女中や娼婦、下層階級の貧民街の様子も興味深い。解説によるとヴィクトリア朝のヘンリー・アッシュビーという著名な英国紳士で大陸中に支店を持つ貿易会社を設立、莫大な財産を築き、稀覯本や美術品の収集家だったらしい。開口健が解説を書いていて丸谷才一も読んだとか。
読了日:9月23日 著者:
狂王ルートヴィヒ―夢の王国の黄昏 (中公文庫)狂王ルートヴィヒ―夢の王国の黄昏 (中公文庫)感想
ルートヴィヒ2世、南ドイツのバイエルン王国の王であり狂気を理由に退位させられ謎の死を遂げたことから狂王ルートヴィヒと呼ばれた。19世紀の激動の時代、ドイツ史の側面や裏側を見るようで面白かったし、何よりルートヴィヒ王自身が大変魅力的だった。アポリネールが月王と名付け、ヴァルレーヌは有名な詩を捧げた。ゲルマンの「白鳥伝説に魅入られた」人生だった。著者は言う、ただの貴族に生まれていれば変わり者の浪費家で一生を過ごしただろう。王であったからこそ悲劇の人生を送ったのだと。政治よりも美と芸術を愛した孤独な王だった。
読了日:9月20日 著者:ジャン・デ・カール
海賊の世界史〈下〉 (中公文庫)海賊の世界史〈下〉 (中公文庫)
読了日:9月16日 著者:フィリップゴス
小説の経験 (朝日文芸文庫)小説の経験 (朝日文芸文庫)感想
読書には時機があり、その本を読む人にとってジャストミートする時があるという。文学にピンとこなかった人の為の文学再入門。文学を読む楽しさ、文学の読み方を平易な言葉で丁寧に語りかける。もし外国人に日本という国、日本人の文化の危機の治癒に最も重要な作者は誰かと問われれば漱石、三島ではなくと答える。なぜなら漱石は言葉を含め外国との出会いに苦しみ、日本の近代人の内面を小説に照らし出したからだ。「行人」の登場人物には日本の近代人の苦悩が書かれていて外国文学と比較することで日本の近代が浮彫りになる。
読了日:9月16日 著者:大江健三郎
新装版 海と毒薬 (講談社文庫)新装版 海と毒薬 (講談社文庫)感想
戦争末期に実際に起きた事件を元に書かれているため発表当時は社会に衝撃を与えた。タイトルに惹かれて読んだがとても重く色々考えさせられた。神(GOD)無き日本人にとって罪とは何か良心とは何かを読者に向かって鋭く問いかける。罪を犯しても社会が罰しなければ良心の呵責は感じないのだろうか?事件は特殊な状況下で起きたものだが事件の起きた原因や関与の仕方など、このテーマは普遍性をもっている。戦争、医療、政治、権力闘争、教育など様々な切口で読むことができる。海外で訳されているかは不明だが、外国人が読んだ感想も気になる。
読了日:9月15日 著者:遠藤周作
蔵書の苦しみ (光文社新書)蔵書の苦しみ (光文社新書)感想
本は場所をとる。本棚を増やしてもすぐ埋まり、溢れた本は床に何本もの塔を建てる。床の本は部屋を占拠し、階段やリビングなど家中を浸食していく。地震がくれば塔は崩れ部屋中を本が飛び交う。二階に本を置きすぎて床がぶち抜けそうになり、火事や空襲で蔵書は焼ける恐ろしさ。持てるがゆえの苦しみ。男は集める生き物だと言っても所詮言い訳に過ぎぬ。本は売るべきでその時点で自分に必要なものだけ残すほうがよいと言うが、手放せば身を切られたような痛みと喪失感が襲いかかりまた買い込んでしまう。繁殖する本の解決策はない。
読了日:9月13日 著者:岡崎武志
フィッシュ・オン (新潮文庫)フィッシュ・オン (新潮文庫)感想
酒を部屋で飲む。釣りながら飲む。釣った魚で飲む。ワイルドだ。世界各地を巡る釣り紀行でめちゃめちゃ面白い。お互いを殿下、閣下と呼び合うカメラマン秋元氏との掛け合い、宿屋の親父、パンティ大王やタイ王太子殿下など個性的な人々との交流も楽しい。釣りはルアーフィッシング。魚と人間の騙し合いと闘争で釣ってみたくなる。アラスカでのキングサーモンスウェーデンでのバイク釣りが熱い。オールカラーの写真がまたいい。風景や魚の描写は美しく、会話や情景描写は臨場感抜群。文章が上手い人の紀行文はいいものだ。北国から南国まで堪能。
読了日:9月12日 著者:開高健
海賊の世界史〈上〉 (中公文庫)海賊の世界史〈上〉 (中公文庫)
読了日:9月9日 著者:フィリップゴス
すし図鑑すし図鑑感想
高級店から回転寿司まで寿司ネタ盛り合わせ。お店で食べられる321種類を掲載。赤身、サーモン、魚卵、光りもの、長もの、白身イカ・タコ、貝、エビ・カニ、その他が1ページ1タネで魚名、すしダネ名、すしと魚の写真、すしダネの説明があって分かりやすい。用語集、索引、参考文献、コラムがある。すしの歴史は奈良時代に東南アジアから渡来。すしと読む漢字の鮨は本来は塩辛のような魚の発酵食品で鮓が正しい。寿司は当て字とか。マグロの部位やいろいろなマグロ鮓も。旨そう。
読了日:9月9日 著者:ぼうずコンニャク藤原昌高
世界文学の名作と主人公・総解説 (わかる・よむ総解説シリーズ)世界文学の名作と主人公・総解説 (わかる・よむ総解説シリーズ)感想
読み友さんと小説の地図について話した時に頭にあった本。有名な欧米文学のあらすじと作家紹介が載っている。作品によって3ページくらい書かれてたり1ページだけだったりするけど概要をつかむのに便利。年表もあるので文学史という大河の流れの地図でもある。針路を決めるのにも役立つ。まだ全部は読んでなくて時々読んでみる感じの使い方をしてる。
読了日:9月4日 著者: